ねこのせかい

図書館で馬場みのる「ねこのせかい」を捲っていたら、つぎのような「あとがき」がありました。
わが家のねこは、実におかしなやつでした。全身がまっ黒で、しっばの先がステッキの柄のようにに曲っていまして、家の前をいぬが通ると、飛び出し行って引ッ掻いたるするのです。小さいくせに気の強いねこでした。
 やがて、飼ってから六年ほどたった頃に、長女が誕生しました。見たこもない赤ん坊が、突然家の中に現れたものですから、ねこは驚いたに違いありません。それからなにか落ち着かない様子でしたが、数日後ねこの姿は忽然と消え失せ、そのまま行方知れずとなったのでした。ねこというのは、どうもフシギな生きものです。ここまでが「あとがき」です。
ずいぶんむかしになりますが、猫を飼いました。終戦後の食糧難時代です。物好きや酔狂で飼ったのではありません。鼠の跳梁甚だしく、夜分枕もとを当然のように駆けまわるのです。細々と節約しながら食べている貴重なサツマイモを齧り、脅かすのです。この齧るという字を憎らしさをごらんなさい。
そこで親類の家から一番見栄えのせぬ仔猫を貰いました。その仔猫が馬場さんのねこと同様の黒猫で尻尾が先曲がりでした。  ほかの特徴である豪胆さは違いますが、さすがに猫は猫の貫禄を鼠に示しました。
ある年の暮れなどは、ご近所の台所から餡餅を盗んできました。自分の食器の皿においたまま、食べもしません。いくら空き腹のわたしでも食べられません。盗泉の水を飲まず、と言いますからね。
「ねこのせかい」は児童向けの絵本ではありません。もしもお読みでなければ、ぜひ一度御覧になることをお勧めします。