蜂の敵討ち

先の休日、昆虫好きの孫に、今昔物語の蜂が蜘蛛に敵討ちをしようとして仕損じた話を聞かせました。おおよそ次のとおりです。(写真はポケット図鑑昆虫より)
むかし京都の法成寺阿弥陀堂の軒に蜘蛛が網をかけていた。蜘蛛の糸は東にある池の蓮葉まで伸びていた。参詣人が「おそろしく長い糸だなあ」と眺めていると、大きな蜂一匹が飛んできて網にかかった。すると蜘蛛が急いで現れ、蜂を糸でぐるぐる巻きにしてしまった。糸が絡まっている蜂は逃れられない。
阿弥陀堂のお坊さんは哀れに思い、木で打ち落とし、絡んだ糸を除いたのでどうにか蜂は逃げることができた。
一両日経て、大きな蜂一匹が来てお堂の軒にブンブン飛びまわる。続いて仲間の蜂が二三百もやってきた。そして蜘蛛が網を張りそうなお堂の軒や垂木の間を捜し廻った。長く引いた糸を辿って池の蓮葉の上にも集まりブンブン唸っていた。蜂の群れはどうしても蜘蛛が見つけられない。一時間ほどしてみな飛び去っていった。
阿弥陀堂のお坊さんは、先日の蜂が蜘蛛に敵討ちするため仲間とやって来た、蜘蛛はそれを察して隠れていたのだなと思った。蜂が去った後、軒の網には蜘蛛の姿が無いので、蓮葉を見ると隙間無く針で刺したようになっていた。お坊さんは、蜘蛛は葉の裏から水面すれすれに糸を垂らし、繁った水草に紛れ隠れていたのだろう、と人には話し聞かせた。
蜂は仲間を誘い蜘蛛に怨みをはらそうとしたが、それを察した蜘蛛は巧妙に身を隠しおおせた。そして蜂は蜘蛛の知恵には及ばなかったようだとも付け加えたのだった。