けむりが目に滲みる

煙草や

雨催いの川沿いを歩いていると、向こう岸のベンチでいかにも満足げに煙草を吹かしている人がいました。眺めるともなく、眺めていましたが、どんな切欠で人間に喫煙の習慣が始まったものでしょうか。ナス科の多年草である煙草は、コロンブス一行が欧州に伝え、慶長年間南蛮船によって日本国内に持ち込まれました。
長崎からの種子が浮羽市志波で栽培され、農産物として採算のよさから、またたくうちに近郷の農家に普及したそうです。本邦ではほぼ嚆矢とされていいでしょう。戦後まで専売局志波出張所が設けられていました。煙草は二メートルほどの高さになり、葉の一枚一枚を専売局の役人さんが丹念に数え上げていたそうです。
喫煙の習慣を止めてから二十年ほどになりますが、わたしはベンチの人ほど陶酔して煙草を吹かしたことがあっただろうか、と思いました。