御巡見上使のお通り

わたくしは、犬嫌いと言うほどのことではありませんが、犬にお世辞を使うほどは好きでありません。ご近所に後期老齢犬(ゴーデンレドリバー)がおりまして、通るたびに吠えられておりました。しばらく、かなりしばらく友好的な顔付きをしておりましたら、吠えなくなりました。最近ダックスフンドが加入しました。この種の犬は余分で神経質な吠え方をします。そこで更に愛想のいい顔をして通ります。以心伝心、現在は友好的な関係であります。
友人に「お前は犬が怖いのか」と半ば冷かされます。平たく言えばそうですけれど、犬の口を御覧なさい。鼻先から耳の許まで裂けているではありませんか。
天保九年の鍋島藩に、御巡見上使の中に、大久保勘三郎というお方がおいででした。このお方は犬嫌いだから、ご領内を御通行の節は、くれぐれも犬を紛れ込ませぬよう、心遣いせよ、とのお達しがありました。
昔の武士でも犬が怖いお侍がいたのですよ。