そうか。考えすぎか

むかしの写生帳が出てきた。湯本温泉に一泊して萩・青海島巡りをしたときのメモが貼り付けてあった。
○先日、萩・湯本・青海島を巡って、一泊旅行をした。
湯本の宿で、所在ないまま外を見ていた。音無川に架かった小さな橋の外灯は、明るすぎるくらいで、七階の窓からにしては、あたりがよく眺められた。
しばらくして、手前から髪を結いあげたった和服の芸者さんと思える女性が現れ、橋の向こうからは、幼い男児が駆け寄ってきた。そして、かの女はしきりとむずかるその児をあやしている。幼児も鬘をつけ、袴姿であった。
 宿の仲居さんが料理を片付けに来たとき聞いてみた。ときどき来る役者さんだという。まだ二才になったばかりだそうだ。けれど祝儀を貰えるので嬉しそうですよと事無しげに言う。そうか、そうか、考え過ぎか。床の間に河童の絵がかかっていた。
二十年も前のことである。