盥で行水

子供のころ盥で行水をした。いまその経験があるのは後期高齢者のうちでも僅かであろう。まず盥という古典的器具はいまない。プラスチックの代用品があるが、風情に劣る代物だ。
もやいの井戸があった。吊るされた西瓜ほど涼味のある食べのは、そう、トコロテンもあった。とにかく井戸には冷ややかな涼気があった。
男児も女児も素裸で盥の中で汗を落とす。そのころでも成年婦女子は久米の仙人に遠慮していた。しかし夕闇過ぎれば如何であったろうか。浮世絵には華麗で品の良い絵姿がある。
盥の水が少なくなると、母親が手桶やバケツの水を懸ける。冷たい水を浴びて歓声があがる。
陽向水は思いがけないほど暖かになる。狭くてもむかしはそれくらいの手狭でも庭があった。