むかしのはなし

どこでいつ憶えたのか鰻屋の店先で弁当を使っている男の噺である。大日本雄弁会講談社の厚い本で読んだようでもある。妙な世智に富んだ教訓や寓話ばかりの本であった。
例えばこんな話もあった。
毎晩のように死んだ女房の幽霊に悩まされた若い鰥夫が思案に困って、お寺の和尚さんに相談する。和尚は黙って手元にあった炒り豆を鰥夫の掌に握らせて、今夜女房の幽霊が現れたらその豆の数を当てさせてみなさい、と教える。言われた通りに鰥夫がすると、幽霊はその数を当てることができない。その晩以来ぷっつり幽霊が現れなくなった。お前はその数を知らない。だから幽霊の女房は知りえない。これが和尚さんの謎解きである。他に多岐亡羊の噺もあった。
ほんの近くに弁当屋(HM)があって繁盛している。そのせいで脂濃い臭いを嗅がされている。店先で弁当を使う男に鰻屋の大将が御代を請求する。男は巾着を出し振って銭の音を聞かせ勘定を済ませる。
旨い匂いだけで食事を済ませる芸当は私にはできない。