タツノオトシゴ

辰年であるが年賀状を書く折には、残念ながら、タツノオトシゴを思いつかなかった。難しい竜の絵柄よりははるかにやさしい。
お魚の末広博士の『魚の博物事典』によると、タツノオトシゴは、雄魚はその腹部に「哺育嚢」と称する袋をもっている。これはちょうどカンガルーの子を育てる袋と同じようなものである。寿命は約三年くらい、成熟すると、雌雄が尾をまきつけて交尾、この雄の哺育嚢に卵を生み込むのだが、をおもしろいのは、雌は雄でさえあれば、どの雄の哺育嚢にも卵を生み込むかというとそうではない.自分の好きなタイプの雄でないと、雌は卵を生み込まないのである。それはともかく、雌から卵を生んでもらつた雄は、この袋の中でその卵がかえり、子魚となるまで、後生大事に育てるのである。
雌は生み付けた後は、さっさとどこかへ行ってしまう全くの生みっ放しである。
ところで卵からかえった子魚は一人立ち出来るようになると、その哺育嚢の狭い口から一尾ずつ外へ泳ぎ出てゆくが、何しろ口がせまいので、哺育嚢の中の子魚が全部外へ出切ってしまうまで、雄魚は大変な「生みの苦しみ」を味わうのである。
末広博士は三重県二見の漁村で安産のお守りとして乾燥した二尾のタッノオトシゴが床柱に吊るしてあるのを見られたそうである。
安産のお守りもよし、雌雄の睦まじさも結構だが、好みのタイプはどうやって判別するのだろうか。